TRONWARE|Personal Media Corporation

TRON & IoT技術情報マガジン

TRONWARE Vol.189

TRONWARE Vol.189

ISBN 978-4-89362-355-3
A4変型判 並製/PDF版電子書籍(PDF版)
2021年6月15日発売


特集1 TRONプロジェクト 2021年の最新状況

トロンフォーラムの第3回総会は例年3月に開催されるが、新型コロナウイルス感染症対策の影響により、昨年に続き今年もオンライン配信によって2020年3月25日に開催された。

会長講演では、プロジェクトリーダーである坂村健教授が、2020年度にTRONプロジェクトが携わったさまざまな取り組みや各WGの活動について振り返った。たとえばOpen IoT教育プログラムはコロナ禍でオンライン形式での講義がさらに強化された。また、Open Smart UR研究会や公共交通オープンデータ協議会(ODPT)などは、多くの企業や団体と連携して進めてきた活動が具体的な成果として見えてきている。

2020年12月に開催されたTRON Symposiumは、コロナ対策としてリアルとバーチャルのハイブリッド開催となった。展示会場は入念な三密対策を行ったうえで来場者数を制限することとなったが、講演や展示内容のオンライン配信により全体の参加者は以前より増えるなど好評であった。2021年も、昨年の成果をふまえてコロナ対策を万全にし、12月8日から10日までの3日間、リアルとバーチャルのハイブリッドで開催すると発表された。

坂村教授は2021年度の展望として、ニューノーマル時代に向けてトロンフォーラムをはじめ関連するさまざまな団体と連携しながら、組込みシステムや情報システムの連携基盤の整備を進めていきたいと語った。

特集2 混雑予報を発信「No!三密プロジェクト」の最前線

坂村教授が会長を務める「持続可能な人流の疎密等のデータ活用協議会」では、都内繁華街、商店、商業施設の混雑情報を独自に収集し、テレビ、データ放送、ウェブサイト、アプリなどによる情報発信を行う「NO!三密プロジェクト」を実施している。

坂村教授は、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」が発信するアドバタイズ信号を活用した混雑観測システムや、スーパーなどの商業施設のPOSの稼働状況データなどから店舗の混雑状況の傾向を公開する取り組みを紹介。今後も起こりうるさまざまな感染症や災害への対策として、誰もが無料かつ自由に活用でき、リアルタイムに「今」の状況を把握できる混雑状況データを共有するためのオープンなデータプラットフォームを構築することの意義を語った。

また、コロナ禍での市民生活に貢献するために、誰もが混雑状況を共有・活用できる環境を構築することを目的とした「みんなで作り共有する混雑状況データ活用プロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングで資金を集めている。研究開発費用を集めるのが目的ではなく、集めた資金は高齢者施設や病院など、必要性が高いが導入が困難なところに優先的に行き渡るように使っていくという。

なお、坂村教授が「三密回避」のためのオープンデータ技術活用をテーマとして、フリージャーナリストの堀潤氏のインタビューを受けた動画が2021年4月12日にYouTubeで公開されている。

No!三密プロジェクト

IoTの力を開放する:Unleashing the power of the IoT~インフィニオンのIoTソリューション

インフィニオン テクノロジーズ(以下、インフィニオン)が、2020年4月16日にサイプレスセミコンダクタ(以下、サイプレス)の買収を完了したことにより、インフィニオンは従来からのマイコン製品が拡充された。

マイコン製品の拡充に加え、コネクティビティ製品やメモリ製品も加わったことにより、従来からのインフィニオンの製品であるセンサーデバイスやパワーデバイス、セキュリティの製品群と連携することで、IoT製品開発に必須な製品群を面で提供・サポートできるようになった。

インフィニオンに新たに加わったサイプレスのマイコンの代表的な製品としてPSoC 4 とPSoC 6 がある。誌面ではこれらの製品とそのソリューションについて紹介している。

PSoC 4 製品ポートフォリオ

ニューノーマル時代の学び直しに「Open IoT 教育プログラム」

「Open IoT 教育プログラム」は、高度なIoT 技術を身につけたい社会人の方を対象に、IoT関連分野の体系的な知識とスキルを短期間で身につけることのできる「学び直し」のためのコースである。2021年度も7月からの開講を予定して、受講生を募集している(2021年6月18日締切)。

2020年度よりオンラインによるリモートでの学習を強化しているが、ニューノーマル時代の多様なニーズに応えるために、多くの演習講義を対面とオンラインが選択可能なハイブリッド形式で実施する。受講期間中は、IoT-Engineの貸し出しも行われるため、効率的な学習が可能である。

また、本プログラムは、厚生労働省専門実践教育訓練に認定されているので、一定の条件を満たした個人あるいは法人は、国の助成を受けることができる。

受講にはC言語に関するスキルを前提とし、リアルタイムOSの世界標準規格IEEE 2050-2018に準拠したμT-Kernel 3.0やIoT-Engineを用いたシステム開発の技術を学習する。また、ウェブアプリケーション開発や機械学習などIoTと関連が深い分野の最新技術についても学べる。

TIVAC Information:DNSpooq

トロンフォーラムは、組込みの脆弱性に関して啓蒙するために「TRON IoT脆弱性センター(TIVAC)」を開設している。米国の国防総省や国土安全保障省などから発信される脆弱性に関するさまざまな情報を、トロンフォーラム会員向けに紹介している。また、TRONに限らず組込みシステム全般に対する危険を広く周知するために、トロンフォーラムのウェブサイトやTRONWAREの「TIVAC Information」のコーナーでも概要を紹介している。

今号では、DNSpooqという脆弱性を取り上げている。組込みシステムにもLinuxやFreeBSDなどPOSIX準拠のOSはネットワークルーターなどで使われることが多いが、今回、dnsmasqというDNSサーバーのソフトウェアに脆弱性が見つかったことが公表された。誌面では公表までの経緯や影響する機器のリストなどの資料を紹介している。脆弱性の危険度の評価比較表や対策については、トロンフォーラム会員向けのTIVACニュースレターで詳しく説明している。

組込みのセキュリティ対策に興味をお持ちの方は、ぜひトロンフォーラムに入会して情報収集に役立てていただきたい。

From the Project Leader
プロジェクトリーダから

2020年度は大変な年だったが、TRONプロジェクトとしても無事1年を乗り越え、2021年4月に新年度を迎えることができた。2021年3月のトロンフォーラム総会では2020年度の活動の総括として講演を行った。特集1ではそこでお話ししたTRONプロジェクトの最新状況を詳しく紹介している。TRONプロジェクトの基本的な考え方は「分散」である。トロンフォーラムという一つの組織だけで何でもやろうとするのではなく、関係する機関や団体と協力しながらさまざまなプロジェクトを行うという方向性で、ここ10年ぐらいは進めてきている。関係する団体には私が中心となっているものもそうでないものもあるが、トロンフォーラムと連携して活動しているいろいろな団体についても取り上げている。2021年度に新たな飛躍をするTRONプロジェクトに注目していただきたい。

* * *

本稿執筆時点の2021年5月中旬になり、やっと一般の人に対するコロナワクチンの接種が始まった。相変わらずコロナ禍は日本に混乱を引き起こしているが、ワクチン接種に対する混乱は日本だけのことではない。どこの国でもワクチンを打ち始めた最初のころは混乱しているので、日本の混乱だけをことのほかあげつらうのはいかがなものかと思う。

それにしても一度起こった混乱はどうにか鎮めなければならない。日本でいちばん大きな問題だと思うのは、マイナンバーの使用制限が厳しく、個人を同定するための番号として有効に使われていないことだ。マイナンバーがうまく使われていれば、住んでいる自治体ではなく離れた場所でも接種を受けられるようなことも容易になる。また接種の運営が自治体でも国でも、二重予約のチェックや1回目の接種を受けたかどうかのチェックもやりやすくなる。このように、マイナンバーを活用できれば、効率よく迅速な接種を進めるためのしくみがつくれるだろう。

ワクチン接種は政府、自治体が主導する必要があるが、ICT技術を活用して民間ができることはいろいろある。その中の一つとして、私たちは、密になっている場所を計測する「No!三密プロジェクト」を始めている。特集2では本プロジェクトの目的や活動を紹介した。私たちは民間プロジェクトとして、コロナ終息のためにできるかぎり貢献したいと思っている。

坂村 健

編集後記特別編

日本のDXのために

オープンデータのマーケティング

どうもマスコミというのは行政に対して批判すること「のみ」が大事と考えているようで、行政がいいことをしたのを褒めるようなことは、ニュースとして取り上げないという傾向があるように感じる。もちろんマスコミの行政に対する監視機能が民主主義にとって重要というのは、インターネット時代になっても変わらない。しかし時代により求められるものが幾分変わっているのではないだろうかとも思う。

こういう話をしたのは、インターネットにより可能になったオープンデータの分野で、マスコミに期待することがあるからだ。行政サービスは基本非営利のため、企業のように利益予想から広告予算を決め「我が社のネットサービスを使ってください」といった感じのCMを打つといったマーケティングはやりにくい。

つい最近、国土交通省が公開したPLATEAU(プラトー)というサイトは、日本全国の3D都市モデルと都市データの整備・オープンデータ化プロジェクトの公開ページだ。プロジェクト・ロゴやサイトのデザインも使い勝手もよく、民間の商業用サービスと比べても遜色はない。お試しの3D都市モデルを体験できるアプリケーション等も紹介されており、かゆいところに手が届くようで──いい意味で行政のサイトとは思えない仕上がりだ。広めるために随分頑張っており、一般の方でも見るだけでも楽しいと思う。

しかし、残念ながらこういう活動があることは一般には知られていないであろう。国交省がプレスリリースを出し、IT系のウェブメディアや建設系新聞ではけっこう取り上げられたものの、通常のメディアはほとんど無視だった。一般紙で取り上げた数少ない新聞もPLATEAUを「都市を3次元(3D)画像でみられるサイトを開設した」と紹介する具合で「オープンデータ」の言葉もなく、基本的にオープンデータに対する無理解が明らかだ。

オープンの理想と日本の従来型行政のズレ

オープンデータは行政サービスに伴い集まるデータを、税金から生まれる「無形の資源」と考え、国民に還元するという考え方。データは使い減りしないし、インターネットによりその利用コストも極端に低下した。その結果、広く公開したほうが多様に有効利用され、国全体にとってもメリットが大きいことがわかってきた。2013年のG8サミットにおいて「オープンデータ憲章」が合意され、参加国は国のデータのネット経由でのオープン化を積極的に進めることになった。

最も進んでいるといわれている米国では、連邦航空局から気象局まで大量の政府機関のデータから飛行機の遅延時間を推定してビジネスの無駄を減らすサービスや、さらにはそれをベースにした新たな機会損失保険など、さまざまなサービスが生まれて社会全体に経済効果が出ている。またビジネスだけでなく、障碍者支援や福祉などでも利用が進んでいる。

しかし「いろいろなことに使える資源としてデータをオープンにする」というのは、特定の利用を前提としない──むしろ利用を限定しないことが正しいという考え方で、それが日本の従来型行政の考えと大きなズレがある。

日本の組織では「完全に管理し安全を保証する」という責任感は、往々にして「最後の利用まで含め完結する」という閉鎖性につながる。「オープンして間違いがあったら」とリスクを恐れる姿勢も行政には強いし、逆に税金で行う事業で始めてみるまで利用されるかもわからないようなことは、「もし誰も使ってくれなかったら会計監査で責任問題になる」という強迫観念もある。「利用法は皆さん考えてください」、「創意工夫で可能性は無限です」というようなオープンの理想は、日本の行政に合わないのだ。

PLATEAUのデータも、想定された都市の開発計画といったお堅い応用だけでなく、オープンになった途端に、面白がって実際の都市のビルの間から巨大怪獣が覗くようなアプリを作る人が出てきている。同じ技術は、実際の都市に道案内を浮かべるしくみにもすぐ展開できる。

より多くの人が知ることで、予想できないようなイノベーションが生まれるのがオープンデータの醍醐味だ。そのためにもオープンデータに関してはマスコミも積極的に扱って欲しい。

リスクとルール

ところで、新型コロナに関する報道は、ワクチンに対するものが中心になってきた。そこで、たいてい指摘されるのが日本の遅れだ。

イスラエルでは接種率が60%近くに達し、その結果の集団免疫により一時は1万人を超えた1日の感染者数が今や100人程度という。ワクチンの効果は明らかだ。米国、英国でも順調に接種率を伸ばし、すでに社会活動の正常化や、渡航制限の解除が話題になっている。じわじわと感染者が増え、ワクチン接種率も、第4波も先が見えない日本としては、それらの国のニュースはうらやましい限りだろう。

しかしなぜ日本でワクチンを打つのが、先行する国に比べ遅れているのかといえば、理由は単純ではないが、大きく言えば日本の新型コロナ禍による被害が、超法規的処置でルールを破るところまでいっていないということだろう。

ブルームバーグがまとめる「新型コロナ耐性ランキング」で日本は7位だが、日本より安全上位でワクチン接種が進んでいるのは、接種により安全を確立したイスラエルのみ。ワクチンなしにリスクを低く抑えていた他の国は皆接種が遅れているという。

特に日本の場合「超過死亡」がマイナス。例年さまざまな死因で死ぬ人の数を、むしろコロナ対策が減らし、全体として死者は減っているという世界でもまれな結果になっている。このリスクレベルでは、憲法に緊急事態条項の無い日本で、法律や人権を無視しての移動制限や強制は不可能だろう。

たとえば、ワクチン認可で時間がかかり確保に手間取ったのも、認可に必要な日本での治験が、低い感染率のせいで進まなかったからと言われる。世界ですでに認可されているものも、日本での治験を飛ばせないのは法律による制限だ。しかし「米国で流行している新型コロナウイルスの変異型に対し、日本人の6割は免疫の効果が低くなる可能性がある」とする解析結果を東京大や熊本大などの研究チームが明らかにしたというニュースがあったように、薬やワクチンの効果や副反応は人種によって異なることもあり、伝染性が強く一度発病したら90%が死ぬというようなリスクの高いパンデミックでもない限り、国内治験無しでは認可させないというルールを守ることには十分な合理性がある。

イスラエルがワクチン接種で大きく先行したのも、土着でなく宗教で集まったという国の成り立ちから、幅広い人種が網羅されている点をアピールし──言葉は悪いが国全体をいわば大規模治験の場として製薬会社に提供したからだという。日本では不可能なそんな政策に国民合意が取れたのも、国家安全保障を何より重視するという、常在戦場のマインドセットがイスラエル国民にあるためだ。

切羽詰まってルールを破ってもすぐできないことも……

7月末までに全成人の接種を完了するというイギリスは1日100万件程度とも言われるとんでもない接種数をこなしている。ネットで有名な発信者でイギリス在住の「めいろまÄsl175Äslmult0 」氏のレポートによると、マイナンバーにあたる国民保険番号で一元管理された国民健康データから中央集権的に接種順番が決められ、日時と会場を基本デジタルで一方的に通知するだけ。

日本では個人情報の壁で不可能だが、イギリスでは健康データが一元管理され、地域ごとの人口や職業データなどを組み合わせ、接種優先順位を機械的に決められる。ポイントはその選別方式が透明化されているから、不公平という声も上げにくいということだ。

日本のように国民側から予約を取ることから始まるわけではないし、国全体で単一システムなので自治体ごとに予約受付で混乱することもない。一部どうしてもネットを使えない人向けの経路はあるものの、ほとんどのやり取りは基本ネットなので接種券の郵送手間やコストも発生しない。予約日時の都合が悪くキャンセルするときもネットで行えば新しい日時が割り当てられるし、そもそも国民番号ベースで管理されているので二重予約の恐れもないし、接種記録も完全だ。

さらにめいろま氏によると、接種会場も場末の薬屋から競馬場までありとあらゆる場所で、受付は名前と生年月日を言うだけで問診もなく、ボランティアが消毒もせずにすぐ注射。調子が悪くないならすぐ帰れという具合だ。

それらのいわば荒っぽいやり方を容認しての1日100万件接種なわけで、日本の現状では、大は個人健康情報の一元管理から、小は場末の薬局でのボランティアによる注射まで、どう考えても無理筋が並ぶ。

イギリスのワクチン状況がいかに理想的に見えても、コロナ死者13万人という地獄を見て──さらに国家緊急事態に対するマインドセットと非常事態にはルールを破れるというルールがある同国だからできたことで、日本で同じようにできることではない。

とはいえ、世界滅亡のパニック映画のような感染症爆発も絵空事ではないと、今回の新型コロナ禍では実感させられた。そういう世界滅亡のリスクなら超法規でルールを破ることに異論は出ないだろうが、マイナンバーによる一元管理の国民健康データベース整備のように、そのときになってからではどうしようもないこともある。

国のあり方として生き残る可能性が高いのはイギリスと日本とどちらか──皆がよく考え決断をしなければならないところに我が国はいる。

坂村 健

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