
TRONWARE Vol.218
ISBN 978-4-89362-395-9
A4変型判 並製/PDF版電子書籍(PDF版)
2026年4月15日発売
特集1:公共交通オープンデータチャレンジ2025 最終審査会・表彰式
公共交通オープンデータ協議会(ODPT)と国土交通省が共同主催する「公共交通オープンデータチャレンジ2025 -powered by Project LINKS-」の最終審査会および表彰式が、2026年2月21日に東洋大学赤羽台キャンパスのINIADホールで開催された。国内外から応募された600件にも及ぶエントリーの中から書類審査を経て選ばれたファイナリスト13組が、それぞれの渾身の作品を審査員と聴衆の前でプレゼンテーションした。
厳正な審査の結果、最優秀賞に輝いたのは同志社大学経済学部宮崎耕ゼミ「Claude Ko」が開発した「Safe Pedal」だ。フロントエンドの完成度の高さはもちろん、日本道路交通情報センター(JARTIC)が提供する交通規制データを活用するとともに、独自にデータを調査・取得し、具体的な社会課題の解決に結びつけた点が高く評価された。どこの地域でも再現可能なオープンデータ活用の手法を確立したことも、審査員の心を動かした。そのほか、優秀賞4作品、審査員特別賞5作品などの入賞作品が発表された。
「東京公共交通オープンデータチャレンジ」から通算して6回目を迎えた本コンテストでは、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)および東京都交通局をはじめとする24社局の鉄道事業者、104社局の路線バス事業者、330組織のコミュニティバス事業者、28組織のフェリー事業者、4社の航空・空港関係事業者、2社のシェアサイクル事業者、デマンド交通に関連して3事業者9自治体の協力のもと、多数の公共交通関連のデータを一般の開発者に公開した。
今回、GTFS-Flex形式を含む自治体のデマンド交通データが、日本で初めてオープンデータ化され公開された。さらに、国土交通省による分野横断的なDX推進プロジェクト「Project LINKS」や地域交通DX推進プロジェクト「《COMmmmONS》(コモンズ)」だけでなく、歩行空間ナビ・プロジェクト「ほこナビ」と連携し、「ほこナビ」が提供する地上28か所、および都営地下鉄大江戸線の12駅構内の歩行空間ネットワークデータに含まれる幅員・勾配・段差の情報、さらに駅構内についてはエレベーター、エスカレーター、トイレの位置情報などが公開されたことが、コンテストの大きなトピックとなった。
- 公共交通オープンデータチャレンジ2025 結果発表
https://challenge2025.odpt.org/award/

特集2:第3回 歩行空間DX研究会シンポジウム
国土交通省は、人・ロボットの移動円滑化のための歩行空間DX研究会の活動として、2026年1月23日に第3回「歩行空間DX研究会シンポジウム」を東洋大学INIADホールで開催した。『持続可能な移動支援サービスの普及・展開に向けて』をテーマに、幅広い視点からの活発な意見交換が行われた。
第1部では、国土交通省 政策統括官の佐々木俊一氏による開会挨拶で、誰もが自律的に安心して移動できる包摂社会の実現を目指し、勾配・段差などのバリアフリー情報をはじめとする歩行空間データのオープンデータ化を推進する取り組みが紹介された。2023年6月に設置された本研究会は、関係者との情報共有・意見交換を通じ、データ整備仕様の検討やオープンデータ利活用促進に力を入れている。
坂村健INIAD機構長は、国土交通省とともに約20年前から推進してきた「自律移動支援プロジェクト」を紹介し、歩行空間ネットワークデータを活用したバリアフリー情報のオープンデータ公開という成果が着実に積み上げられていると述べた。INIADの別所正博教授は、歩行空間ネットワークデータ整備の現地実証(東京都北区)、AIを活用したバリアフリー施設データ整備の実証(大阪府豊中市・池田市)、公共交通オープンデータチャレンジとの連携という三つの実証実験を紹介した。
第2部のパネルディスカッションでは、有識者・民間事業者・行政などが参加し、移動支援サービスに関する取り組みと、持続的なデータ整備・更新の実現に向けた意見交換が行われた。坂村機構長は二つの重要課題を指摘した。一つは持続的なデータ整備・更新の実現で、行政だけでは限界があるため、多様な主体が参加する場合のガバナンスと役割分担の明確化が必要だという。もう一つは利活用環境の構築で、利用者が増えればデータ整備に参加する人も増えるという好循環を生むために、データ登録ツールの公開・周知に加え、LINEなど普段使いのツールを活用して参加のハードルを下げる工夫が重要だと述べた。こうした課題の解決には、当事者・ボランティア・民間企業・AI・市民全体が協力する「オープンアプローチ」が不可欠だと強調した。
- 第3回 歩行空間DX研究会シンポジウム
https://www.walkingspacedx.go.jp/symposium2025/

賢い超小型衛星を実現する衛星搭載用オンボードコンピュータ「AI-OBC」
人工衛星に搭載されるオンボードコンピュータは、電源制御・姿勢制御・通信制御・熱制御などの衛星バスの基本機能を統括するとともに、ミッションペイロードから得られた膨大なデータの処理を担う、最も重要なコンポーネントである。人手を離れ、遠い宇宙で大役を担うオンボードコンピュータには、高い信頼性とリアルタイム性が求められる。T-Kernelはそれを支えるオペレーティングシステムとして数々の人工衛星に搭載されている。
一方、近年では人工衛星を構成するコンポーネントとして非宇宙用デバイス(COTS:Commercial Off-The-Shelf)を積極的に採用することで、小型かつ安価に超小型衛星を開発し利活用する流れが活発化している。金沢大学では、COTSデバイスを採用した衛星搭載用オンボードコンピュータ「AI-OBC」をシマフジ電機株式会社と共に開発し、T-Kernel 2.0 AeroSpaceによる高信頼な衛星システム制御機能と、軌道上で人工知能(AI)を用いることによる衛星運用とデータ処理の自律化を目指している。
2027年に予定されているAI-OBCを搭載した超小型科学衛星「IMPACT」の打ち上げを前に、金沢大学理工研究域 電子情報通信学系 准教授の松田昇也氏にその開発と将来像について寄稿していただいた。

TIVAC Information:組込み機器関連の注目脆弱性
2025年12月〜2026年3月のJVNデータベースから、組込み機器関連の注目脆弱性として3件が挙げられる。セイコーエプソン製プリンターの管理用WebインタフェースであるWeb Configにおけるスタックベースのバッファオーバーフロー、世界中のレジやPOSシステムに広く採用されている通信プロトコルESC/POSのセキュリティ問題、そしてTOA製ネットワークカメラ TRIFORA 3シリーズの複数脆弱性だ。
これらに共通するのは「ネットワークには接続されているが、セキュリティ更新のしくみが不十分な機器」という点だ。たとえばエプソンのWeb Configはファームウェア更新が提供されておらず、問題の本質は機器の古さではなく、更新できない設計そのものにある。過去には、Web Configの初期状態で管理者パスワードが未設定になっている問題があった。これを放置したままネットワークに接続すると、攻撃者による管理者権限の奪取や、デバイスを踏み台にした広範なネットワーク攻撃の可能性が生まれる。こうした課題は、組込み機器業界全体に広くみられる慢性的な課題だ。
経産省はこうした問題の対策のためにIoTセキュリティガイドラインを発行しているが強制力を持たず、対応はメーカー・事業者の自主性に委ねられている。しかし業界の自主的な動きも始まっており、主要ルーターメーカー4社がDLPAを通じてセキュリティ基準「DLPA推奨ルーター2」を2026年2月に策定した。経産省のJC-STAR制度による第三者評価ラベルとあわせ、こうした基準や制度が購買基準として定着すれば、市場競争を通じたセキュリティ向上が期待できる。組込み機器のセキュリティには、個別の脆弱性対応にとどまらず、設計・流通・運用にわたる構造的な取り組みが求められている。

From the Project Leader
プロジェクトリーダから
本号の特集では、公共交通オープンデータチャレンジ2025の最終審査会と表彰式を詳報する。公共交通オープンデータ協議会(ODPT)と国土交通省が共同で主催する本コンテストも、今回で6回目を迎えた。回を重ねるごとに応募数も増加し、今回は国内外から約600件ものエントリーがあり、その中から13作品がファイナリストとして選定され、2月21日にINIAD(東洋大学情報連携学部)にて最終発表と審査が行われ、最優秀賞・優秀賞などが決定された。
本チャレンジは、年を追うごとに提供されるデータが充実し、これまで参加のなかった組織にもご協力いただけるようになっている。公共交通のデータにとどまらず、多様なオープンデータと連携させた応募作品が多く見られ、大変興味深い内容であった。
このオープンデータチャレンジを通して繰り返し訴えていることは、データをオープンにすることで、そのデータを基盤として多くの人々が自らのやりたいことを自らの手で実現できる環境を整備するという考え方である。このような視点は、残念ながら日本ではこれまであまり根付いてこなかった。
現在のコンピュータ・ネットワーク社会において、政府や企業がすべてのデータやプログラム、ソフトウェアを抱え込んで提供するという、古い日本型の考え方から脱却する必要がある。データや機能をAPIとして提供し、それを利用者自身が組み合わせて、やりたいことを素早く実現できるようにする。これこそが、あるべき姿の根底にある考え方だ。従来の日本のクローズドな姿勢に対し、オープンな環境で多くの人々が連携・共創し、課題を解決していくというアプローチが今こそ求められているのだ。
これからのデジタルネットワーク社会、特にAI が台頭した現在においては、共創的な活動を行うための状況や条件が整ってきた。だからこそ、データをオープンにし、APIを公開することの重要性がいっそう高まっていると私は考えている。こうした取り組みによって社会に何が起きるのかを具体的に示すためにも、本チャレンジの開催は重要だ。イノベーションは確率的に起こるものであり、そのイノベーションが生まれる「場」を提供することが、現在のTRONプロジェクトの非常に重要な役目であると確信している。
また今号では、μT-Kernelの進化についても取り上げている。μT-Kernel 2.0がIEEEの世界標準となってすでに8年近くが経過し、μT-Kernel自身も着実に進化を続けている。特に最近では、TrustZone機能を持つ最新のマイクロコンピュータへの対応を精力的に進めている。そうした技術を解説するウェビナーの開催頻度もますます高めている。
今回、金沢大学の松田昇也准教授にご寄稿いただいた記事では、日本独自の宇宙開発においてμT-Kernel 2.0 AeroSpaceがいかに重要な役割を果たしているかを示していただいた。
組込みOSとしてのμT-Kernelは、ゆっくりとではあるが着実に進化を続けている。2026年度は次世代のμT-Kernelに向けた活動をトロンフォーラムとして本格的に進める予定である。ぜひご注目いただきたい。
坂村 健

編集後記
長年大学に勤めてきたこともあり、毎年春になると卒業式や入学式などのさまざまな行事が続く。一年に一度リセットされるような感覚の中で新年度を迎えるということを、何十年と繰り返してきた。その長い時間の中で、時代の移り変わりを肌で感じ続けてきた。
振り返れば、社会情勢が急激に変化するのは昔も今も変わらない。昔と今とでどちらが良かったということでもない。しかし、生成AI の登場だけは別だ。その社会への進出スピードは際立っており、仕事のやり方、生活の仕方、社会の在り方のすべてが変わろうとしている。
それに加えて世界を見渡せば、コロナ禍の騒動にとどまらず、戦争や気候変動により規模が拡大したような災害も相次いでいる。私のこれまでの人生を振り返ってみても、こうした大きな変化が次々と起こる「速度」という点においては、過去とは明確に異なっていると感じている。
このような時代には、国も、企業も、社会全体も、変化し続ける努力が求められる。しかし、拙著『変われる国・日本へ イノベート・ニッポン』(アスキー新書、2007年)などでも、日本はこの変化への対応が遅いということを繰り返し指摘してきた。それは産業革命の時代、社会全体が変わろうとしていたにもかかわらず、日本がなかなか開国できなかったことからも明らかである。
ところが日本には面白い側面もある。変わるときには突然、劇的に変わるのだ。明治維新がその典型であるように、長らく変われなかったものが、ある瞬間を境にドラマチックに変貌していくという歴史が、日本にはある。
いよいよ今年あたりから、我々は「今こそ本当に変わらなければならない」決定的な局面に立たされていそうだ。新たなスタートの季節である春の訪れとともに、次なる変革に向けて思いを新たにしている。
坂村 健
