TRONWARE Vol.220
ISBN 978-4-89362-397-3
A4変型判 並製/PDF版電子書籍(PDF版)
2026年8月17日発売
特集:世界に展開する組込み開発
μT-Kernelをはじめとする組込み用TRON系OSは世界中で使われている。特に、μT-Kernel 2.0をベースとしたIEEE 2050-2018はIEEE標準としての地位を確立し、国内外の数多くの製品・サービスを支えている。
本特集では、こうした「世界に展開する組込み開発」の最前線を、複数の切り口から紹介する。
まず、IoT製品を海外市場に展開する際に避けて通れない法規制の実務を、専門家によるウェビナーの内容から解説する。続いて、セキュリティ要求の高まりを背景に開発が進むμT-Kernel 3.0 Secure Extensionを取り上げ、Arm TrustZoneに対応した組込みセキュリティの実装を紹介する。
さらに、次世代の技術者育成の場として注目される「TRONプログラミングコンテスト2026」の関連ウェビナー(ルネサス エレクトロニクス編、ST マイクロエレクトロニクス編、パーソナルメディア編)を誌上セミナーとしてお届けする。同コンテストの総エントリー数は215件(国内54件/海外161件)に達し、前回の151件を大きく上回る盛況ぶりとなった。とりわけ海外からのエントリーが国内を上回った点は、TRON系OSが世界で活用されている証といえるだろう。
そして、TRONプロジェクトが組込み開発への生成AIの積極活用を目指して始動した「AI開発WG」の最新動向を報告するとともに、生成AIを活用できる人材育成の取り組みとしてINIADが開講している「生成AI時代に向けたIoT人材育成プログラム」を紹介する。
技術標準としての国際的な広がりと、開発現場における生成AI活用という二つの潮流が交差する今、組込み開発はどこへ向かうのか。本特集を通じてその一端をお伝えしたい。
技術者のためのIoT海外展開 法規制最前線ウェビナー 第1回 日本のIoT製品が世界に出ると何が起きるのか
一般社団法人IoTサービス連携協議会(AIoTS)主催、トロンフォーラム共催で、日本で開発したIoT製品(機器本体からクラウド・アプリまで含む)の海外展開時に直面する法規制を、技術者が設計・開発段階から理解できるようにするウェビナーシリーズを開催している。
2026年6月15日にひかり総合法律事務所の板倉陽一郎弁護士を招き「技術者のためのIoT 海外展開 法規制最前線ウェビナー 第1回」が開催された。
「日本のIoT製品が世界に出ると何が起きるのか」をテーマに、EU・英国・中国・米国の主要規制について、個人データ保護・事業者向けサイバーセキュリティ・製品向けサイバーセキュリティ・データ経済という四つの枠組みで整理して、具体的な事例を交えながら紹介し、開発の上流段階からの法的要件の組み込みを訴えた。
Arm TrustZoneに対応したμT-Kernel 3.0セキュア機能拡張
IoTの普及に伴い、組込みシステムのセキュリティ対策の重要性が増している。Arm社のマイコンにはセキュリティ機能TrustZoneが搭載されるようになり、この機能を利用することにより、より強固なセキュリティが実現できるようになった。
トロンフォーラムではこの状況に対応し、IEEE国際標準規格に準拠したリアルタイムOS μT-Kernel 3.0に対して、セキュリティ機能を拡張するSecure Extensionを開発し、2025年11月より一般公開を行っている。Secure ExtensionはまずはArmのTrustZoneに対応している。
本稿ではこのμT-Kernel 3.0 Secure Extensionについて説明する。
TRONプログラミングコンテスト2026ウェビナー
- エッジAI向けMCU RA4E1/RA8P1の紹介(ルネサス エレクトロニクス株式会社)
ルネサス エレクトロニクスは、TRONプログラミングコンテスト2026に向けて2種類のマイコン評価ボードを提供している。一つは汎用的なRA4 シリーズのエントリー製品「RA4E1」、もう一つはAI処理に特化した高性能製品「RA8P1」ある。本稿では、これら2製品の特長とエッジAI開発を支援するツール群を紹介する。 - NanoEdge AI StudioとSTM32Cube.AIを用いたマイコンへのAI実装方法(STマイクロエレクトロニクス株式会社)
STマイクロエレクトロニクスは、TRONプログラミングコンテスト2026に向けて2種類のSTM32評価ボードと組込みAI開発ツールを提供している。本稿では、コンテスト参加者向けに提供されるこれらのリソースを紹介するとともに、STが提供する二つの組込みAI開発ツール「NanoEdge AI Studio」および「STM32Cube.AI」の概要と使用方法を解説する。 - micro:bitで応募するTRONプログラミングコンテスト2026(パーソナルメディア株式会社)
パーソナルメディアでは、英BBCが教育目的で開発した超小型マイコンボードmicro:bitにμT-Kernel 3.0を移植した環境を提供している。TRONプログラミングコンテスト2026においても、micro:bitは対象ボードの一つである。本稿では開発環境の構築から周辺デバイスの制御まで、コンテスト参加に必要な情報を解説する。
- TRONプログラミングコンテスト2026
https://www.tron.org/ja/programming_contest-2026
トロンフォーラムAI開発WG 活動報告と新規参加企業募集のお知らせ~オープンなエコシステムで組込みAI開発の未来を共に創る~
トロンフォーラムでは組込みシステム開発における生成AIの本格活用を目指し、「AI開発ワーキンググループ(WG)」を立ち上げた。
本WGはすでに2回の会合を開催しており、組込み業界から多数の企業に参画いただいている。参加企業からの期待と関心は非常に高く、各社が抱える現場のノウハウや課題感を共有しながら、毎回熱を帯びた議論が交わされている。
本稿では、本WGの活動状況を報告するとともに、さらなる参加を検討している企業に向けて、参加の手続きやスキームについて詳しく解説する。
生成AI時代に向けたIoT人材育成プログラム 2026年度受講生募集
「生成AI時代に向けたIoT人材育成プログラム」は、生成AIによる急速な変革の時代に、IoT技術者に必要となる知識とスキルを身につけることのできる、社会人のための「学び直し」のための教育プログラムである。
INIADでは、2018年より「Open IoT教育プログラム」を開講してきた。2025年より、生成AIによる急速な変革に合わせ、カリキュラムを一新し、これからのソフトウェア開発において不可欠な知識となる、生成AIに関しての教育を拡充した。
このプログラムでは、IoT分野を支える約150団体が入会するトロンフォーラムと連携し、リアルタイムOSの世界標準規格IEEE 2050-2018に準拠したμT-Kernel 3.0、IoT-Engineを用いたシステム開発を教育する(C言語に関するスキルを前提とする)。さらに、これからのソフトウェア開発において不可欠な知識となる、生成AIに関しての教育を行う。ここでは、基本的なプロンプティングに始まり、Function CallingやMCPによるAPI連携、さらにコーディング・エージェントを活用したソフトウェア開発手法についても扱う。
このプログラムでは、一部の演習を除き、対面とオンラインが選択可能なハイブリッド形式で実施する。受講期間中は貸出を行うIoT-Engineを利用して、効率的な学習が可能である。
- 生成AI時代に向けたIoT人材育成プログラム
https://enpit.iniad.org
公共交通オープンデータチャレンジ2026
公共交通オープンデータ協議会(ODPT、会長:坂村 健 東京大学名誉教授)と国土交通省は、2026年7月1日より「公共交通オープンデータチャレンジ2026」を開催している。本チャレンジは、多数の公共交通関連のデータを一般の開発者に公開し、それらを活用したアプリケーションの開発を促進する、賞金総額最大300万円のアプリケーションコンテストだ。
ODPTは2017年以来、公共交通オープンデータを活用したアプリケーションコンテストを開催しており、今回で通算7回目の開催となる。これまで、国土交通省が進める分野横断DX推進プロジェクト「Project LINKS」や地域交通DX推進プロジェクト「COMmmmONS」(コモンズ)が提供するオープンデータ、さらに「歩行空間ナビ・プロジェクト(ほこナビ)」が提供するバリアフリー関連のオープンデータを活用した、多くの先進的な作品が応募されてきた。今回はさらに、地方都市圏を含む交通データの拡充や、駅構内図データの充実化にも取り組む。
本チャレンジの開催を通じて、オープンデータの活用による地域交通の課題解決、ひいては地域の活性化を推進していくために、世界中の開発者の皆様からの、熱いチャレンジをお待ちしている。
- 公共交通オープンデータチャレンジ2026
https://challenge2026.odpt.org
【速報】開催決定! 2026 TRON Symposium -TRONSHOW- TRON×AI 3
TRONプロジェクトの1年間の総決算となる2026 TRON Symposium -TRONSHOW-が、2026年12月9日(水)~11日(金)の3日間にかけて、渋谷パルコDGビル18Fカンファレンスホール「Dragon Gate」で開催されることが決定した。
1984年に発足したTRONプロジェクトは、リアルタイム性が求められる組込みシステムの研究開発からスタートし、IoT時代には多様なエッジノードの相互接続基盤として発展してきた。そして現在は、AI、クラウド、オープンデータなどの新たな技術を掛け合わせ、実世界とデジタル空間を結ぶオープンな社会基盤の実現に取り組んでいる。
2026年のテーマは「TRON×AI 3」。2024年から継続しているテーマの集大成として、さまざまな講演・セッションおよび展示が企画されている。
- 2026 TRON Symposium -TRONSHOW-
https://www.tronshow.org
TIVAC Information:lwIPの脆弱性をどう把握するか ― Security Maintenance Eventという視点
オープンソースソフトウェアの安全性は、バージョン番号だけでは判断できない。脆弱性の発見から修正、正式リリース、ベンダーSDKへの反映までには、しばしばズレや遅れが生じるからだ。本稿ではこの一連の流れを「Security Maintenance Event」とよび、オープンソースに広く共通するこの問題についてlwIP(lightweight IP)を例に整理する。
lwIPは、組込みシステム向けの軽量なTCP/IPプロトコルスタックで、多くのマイコン向けSDKに組み込まれている。そのlwIPで2026年5月、相次いでセキュリティ上の問題が明らかになった。しかしCVE番号(情報セキュリティの脆弱性を一意に識別するための世界共通の管理番号)を追うだけでは実態を把握しにくい。
まず「バージョン番号が最新かどうか」という一点だけでlwIPの安全性を判断しないことだ。正式リリースと、それ以降に公開された個々の脆弱性情報を、独立に、しかし関連付けて追い続ける必要がある。
そのうえで、会員が製品や開発環境で利用するlwIP配布パッケージを更新する際には、公開されているSecurity Maintenance Eventのうち、どこまで反映済みかを明示し、利用者が個別に判断できるようにすることが考えられる。利用者側も、ベンダーSDKのバージョン番号だけでなく、そのベンダーが実際にどの時点のコードを取り込んでいるのかまで、可能な範囲で確認するのがよい。
「バージョン」という一つの数字ではなく、発見・修正・リリース・ベンダー反映という一連の出来事で状況を捉える。地味だが、この視点の切り替えこそが「直っているはずなのに不安が消えない」状態を解きほぐす手がかりになると考えている。
トロンフォーラムでは続報や各ベンダーの対応状況を今後も追跡し、TIVACの会員ページで公開していく予定だ。
From the Project Leader
プロジェクトリーダから
情報処理システムの開発に比べると変化のスピードはゆるやかであるが、組込みシステムの世界もまた着実に進化を続けている。組込みシステムが航空機や宇宙船、あるいは社会インフラの末端を支えるものである以上、ベースとなる部分を頻繁に変更することには大きな困難が伴う。宇宙に打ち上げたロケットの制御コンピュータのOSを変更するなど、そう簡単にできることではない。一度採用されたシステムはできる限り変えたくないという方針が採られるのは、むしろ当然のことである。
しかし近年、IoTやエッジノードが単独で動作するケースは急減し、ネットワークの一員として機能することが当たり前になってきた。これはまさに、TRONプロジェクトが数十年前から提唱してきた「どこでもコンピュータ」――多様なエッジノードがネットワークに接続し、全体として一つのシステムを形成するユビキタスコンピューティング——が現実のものとなった姿である。さらに近年では、地球周回軌道上にデータセンターを設置する構想も現れ始めており、エッジノードの役割はますます重要度を増している。
TRONプロジェクトでは、組込みシステムをネットワークにいかに接続するかという課題に、早くから重要テーマとして取り組んできた。
一方、ネットワーク接続は必然的に情報システムとの関わりをもたらし、それに伴うセキュリティ上の課題をシステム全体に波及させる。サイバー攻撃への防御なしにネットワークへ接続することは、もはや無謀と言わざるを得ない。
こうした状況に対し、近年の半導体技術・マイコンの進歩は新たな解決策を提供しつつある。TrustZone対応マイコンに代表されるように、セキュリティ機能をハードウェアレベルでカバーし、パフォーマンスを損なわずにセキュアな処理を実現する新世代のマイコンが登場してきている。TRONプロジェクトでは早くからTrustZone対応に取り組んでおり、その成果が近年まとまりつつある。本号の特集では、マルチコアチップ上に実装するμT-Kernel最新版の技術的な解説を中心に取り上げている。
技術的な課題に加え、IoTエッジノードを組み込んだ製品を世界市場に展開しようとすると、法規制という避けて通れない問題が生じる。取り扱うデータのセキュリティのみならず、プライバシー保護・個人情報の取り扱いに関して、各国・各地域の法律に準拠した製品開発が求められる時代となっている。
本号では、EU一般データ保護規則(GDPR)をはじめとする世界の個人情報保護規制に深い知見をお持ちの板倉陽一郎先生に、エッジノードをグローバルに展開する際に注意すべき法的ポイントを解説いただいた。開発エンジニアの方々にも、ぜひこうした法規制の知識を身につけていただきたい。
AIの活用により組込み開発の効率化が進む一方、エンジニアには社会的・法的な課題への対応という新たな責務が求められるようになっている。これが現代の組込みシステム開発の現実である。
また、この分野でのイノベーション創出に向けて、オープンデータを活用したコンテストや教育の重要性についても本号で触れている。今年度の最先端の取り組みに関する計画も併せて掲載しているので、ぜひ本特集をご覧いただきたい。
坂村 健
編集後記
このたび9 月に『AIとは何か――言語からフィジカルへ、人間と〈逆〉進化する知能』を出版することになった。これまで、『IoTとは何か』『DXとは何か』など「~とは何か」シリーズを刊行し続けてきたが、AIをめぐる動きが急速かつ多様になっている今こそ、同シリーズとしてAIを正面から取り上げるべき時機だと判断した。『AIとは何か』もこれまでと同じく角川書店からの刊行である。ぜひ手に取っていただけると幸いだ。
そのあとがきにも記したが、AIについて論じるこの本の制作にあたって、かつてないほどAI を活用した。AIを最大限に活用したのは、300ページを超える本としての構成を整え、体裁を統一するという編集工程においてである。出版社もここまでAIを制作に取り入れて本をまとめた例は初めてだと驚いていた。
大部の本を仕上げるうえで長年の難題だったのが、表記の統一である。冒頭と末尾で同じ概念に異なる語を当てていないか、算用数字と漢数字が混在していないか――こうした校正作業は、従来は熟練した校正者が膨大な労力を費やして担ってきた。SNSで思いついたことをそのまま発信するスタイルとは異なり、「本」とはそうした完成への工程を経た、ひとまとまりの著作物である。紙に印刷するか電子画面で読むかを問わず、その質的な差こそが本の本質だと私は考えている。
字詰めの設定をはじめ、本づくりには細部にわたる膨大な作業が伴う。そうした完成度を高める工程にAI を活用できることは、著者にとって非常に大きな意味を持つ。
振り返れば、これまでの著作では冒頭と末尾で同一概念の語が異なるといった、いわばハルシネーション的な不統一が残ることもあり、熱心な読者から指摘を受けることもあった。人間が行う作業である以上、わずかな見落としはやむを得ず、「二版から直そう」と後から修正した記憶もある。今回の本はAI を徹底的に活用して仕上げたことで、初版から高い完成度で世に出せたと確信している。ぜひご購読いただきたい。
坂村 健
AI とは何か
——言語からフィジカルへ、人間と〈逆〉進化する知能
著者:坂村 健
出版社:KADOKAWA
定価:2,420 円(本体 2,200 円+税)
発売日:2026 年09 月11 日
ISBN:9784049721973
https://www.kadokawa.co.jp/product/322605000678